彼は相変わらずわたしに綺麗な敬語を使っていた。
服装はいつもGパンにTシャツ
風にサラサラとなびく髪にも整髪料は使っていないようだった。
その時彼は専門学校を出て働いていたが
その様子は大学生そのものだった。
わたしはそんな彼に合わせて若作りをしようという気にはなれず
デートの時はいつも大人のシックな装いだった。
そのため食事に行った際、
店員さんがお会計の伝票をどっちに渡そうか迷ってしまう場面が度々あり
やはり嫌でも人の目が気になる事が多かった。
彼は全く気にしていなかったが
彼に申し訳ないと思ってしまう自分がいた。
わたし達どんな風に見られてるんだろう?
親子?
でも親子で敬語は使わないよなぁ・・・
じゃ先生と生徒・・? ん~それはないか・・・。
上司と部下・・そんなところかな・・・?
そんなような事を わたしはいつも考えていた。
そして最後にいつも同じ疑問が頭に浮かぶのだ。
「彼はわたしの いったい何が好きなんだろう?」
二十歳になったばかりのこの青年に
どう考えてもわたしは似つかわしくなかった。
わたしはそれほど卑屈な人間では無かったが
彼の前では卑屈に成らざるを得なかった。
純粋無垢な彼と わたしでは あまりにも違いすぎる。
そしてこう思った。
彼の心がわたしから離れた時
すがって泣くような惨めな女にはなるまいと・・・。
彼はいつか必ず わたしの元を去る日が来るのだ。
悲しいけれどそれが現実だ。
余計なことは考えず 今は彼と楽しく過ごそう・・
わたしの思惑など知らない彼は
いつも優しくわたしを見つめてくれた。
そんな寂しさを胸の奥に仕舞い込み
わたしも精一杯彼に微笑み返していた。
続く・・・
0コメント